バイナリーオプション被害事例 第16話|去年の数字が見つからない

バイナリーオプション被害事例 今回取り上げるのは、富山県高岡市の介護施設で事務をしている小林順子さん(仮名・53歳)のケース ― 人物と状況を再構成した創作事例。 2026.10.23 文:タイアンブリッジ編集部 27
「誰でも、思いがけない出来事は起こります」― バイナリーオプション被害事例 第16話の導入バナー
※本記事は、寄せられた情報や公開事例で確認されるトラブルの傾向を参考に、人物・状況を再構成した創作事例です。特定の個人や事業者を示すものではありません。

「去年の取引履歴が、全部は出てこないんです」

自宅の居間で、ノートパソコンの取引履歴を確かめる様子(創作事例のイメージ)

富山県高岡市に住む小林順子さん(仮名・53歳)は、そう言ってノートパソコンを開いた。

画面には、海外のバイナリーオプション業者A社の取引履歴が表示されていた。

日付を指定する欄がある。順子さんは前年の1月1日から12月31日までを入力し、検索ボタンを押した。

出てきたのは、10月以降の取引だけだった。

「ここまでは出るんですよ。でも、その前がないんです」

最初に気づいたのは、確定申告の準備を始めた2月だった。

介護施設の事務室で、書類のファイルを整理する様子(創作事例のイメージ)

順子さんは市内の介護施設で事務の仕事をしている。利用者の請求書類や職員の勤務記録を扱う。

夫とは数年前に離婚し、現在は一人暮らしだ。家計簿もエクセルで付けていて、レシートの番号まで欄を分けて書き込む。職場でついた癖だという。

ただ、A社の取引だけは、そのエクセルに入っていなかった。

「サイトに全部残っているから、自分で書く必要はないと思っていたんです」

A社に口座を開設したのは一昨年の秋。休日に経済関連の記事を読むうちに、少額から取引できるサービスを調べるようになった。最初の入金額は8万円だった。

仕事のある日はほとんど取引せず、週末に数回利用する程度だった。

利益が出る月もあれば、損失の方が多い月もあった。

前年の11月、A社のサイトが新しい取引画面に切り替わった。

ログインすると案内が表示され、以前よりも画面が見やすくなった印象だったという。

保有残高もそのまま引き継がれていた。

順子さんは新しい画面で何度か取引した。取引履歴のタブは開いていなかった。

夜の居間で、スマートフォンからもログインして履歴を探す様子(創作事例のイメージ)

2月に検索期間を広げてみても、10月より前は一行も出てこなかった。日付を一か月ずつ区切って入れてみたり、スマートフォンからログインしてみたりもした。同じだった。

順子さんはA社のカスタマーサポートへ問い合わせた。

翌日の返信には、システム更新に伴い、旧取引画面の履歴が新画面にすべて移行されているわけではない、と書かれていた。

古い履歴については別途確認が必要だという。

「残高は引き継がれているのに、履歴は別なんだと思いました」

順子さんは、前年の取引回数を正確に覚えていなかった。

銀行口座にはA社への入金記録が残っている。ただ、そこから分かるのは、お金が動いた日付と金額だけだった。

年の途中には利益を一部出金したこともある。その後、残高が減って追加で入金した月もあった。

海外業者との取引は初めてだったので、申告が必要かどうかから、姉に紹介してもらった税理士に相談することにした。

税理士は書類をめくりながら言った。

「入出金だけ見ても分からないんですよ。年初と年末の残高も要ります。会社員の方なら、利益が20万円以下なら確定申告は要らないんですけど、超えていたら3月15日までに出さないといけません。どっちなのかは、数字がそろわないと何とも言えないですね」

利益だったのか損失だったのかも、履歴がそろうまで分からなかった。

その日の夕方、順子さんは駅前の文具店でクリアファイルを買った。

銀行明細やメールの控えを、日付順にクリアファイルへ挟む様子(創作事例のイメージ)

家に戻ると、銀行明細とA社から届いた過去のメールを日付順に挟んだ。10月より前の取引結果を示す紙は、一枚もなかった。

A社に二度目の問い合わせをした。

前年1月から9月までの全取引履歴を、CSVファイルなどの形式で提供してほしいと依頼した。

返信は4日後だった。

旧システムのデータについては、担当部署による確認が必要で、取得できる範囲と提供時期は現段階で確約できないという内容だった。

順子さんは電話でも問い合わせたかったが、A社の日本語窓口はメール対応が中心だった。

「全部とは言いませんから、できるところから送ってもらえませんか」

三度目のメールには、そう書いた。

それから一週間ほどして、A社からファイルが届いた。

1月から6月までの取引履歴だった。

届いた取引履歴を、家計簿のエクセルに移す様子(創作事例のイメージ)

日付、取引金額、結果、損益。順子さんはその晩、数字を家計簿のエクセルに新しいシートを作って移した。シート名は「A社」にした。

7月から9月までは引き続き確認中で、追加分の提供まで時間がかかる可能性があると書き添えられていた。

順子さんは税理士に連絡した。

「まだ3か月分が足りないんです」

税理士は、今ある資料を先に整理することにした。

銀行明細、年初・年末の残高、出金履歴、A社から届いたデータ。確認できる数字と確認できない数字を、表の欄を分けて書き込んでいった。

その間に、順子さんはメールの受信箱からA社の以前の案内メールを見つけた。

画面切り替えのお知らせだった。

本文の途中に、旧画面の一部情報が新画面で確認できなくなる場合がある、という一文があった。

過去の取引履歴をいつまでに保存すべきか、すべての取引データを後日取得できるのかについては、書かれていなかった。

「これを読んで、去年の履歴が出せなくなるとは思わなかったですね」

残り3か月分のデータが届いたのは、確定申告期限の二日前だった。

順子さんはその日のうちに税理士へ転送した。翌朝、出勤前に電話がかかってきた。

「全部足したら、マイナスでした。3万6千円くらい。今回は申告するものはないですね」

届いた履歴にも、確認した範囲では大きな欠落はなかった。

申告書は一枚も書かなかった。それでも資料の突き合わせには税理士の手がかなりかかり、順子さんは相談料に整理費用を加えて1万1千円を支払った。申告が要らないと分かるまでに、一か月半かかった。

「お金が返ってこないという話ではないんです」

取材中、順子さんは何度かそう断った。

「取引は自分でしたものですから、損失は仕方ないです。でも、申告が要るのか要らないのか、自分では確かめられなかった。それが困りました」

順子さんはその後もA社の口座を持っている。

残高の出金も済ませていない。今後利用を続けるかどうかは、まだ決めていないという。

居間で、姉からの電話に応じる様子(創作事例のイメージ)

取材が終わるころ、順子さんの姉から電話がかかってきた。

日曜日の昼食をどこで食べるかという相談だった。

「駅の南口のお店? あそこ、前に混んでたでしょう。11時半なら入れるかな。うん、じゃあ南口で」

編集部から

今回の事例では、取引による損失と、取引履歴を確認できなくなったことによる不利益を分けて考える必要があります。

A社は最終的に過去の取引データを提供しました。ただし、画面更新後に利用者が自分で履歴を確認できず、申告が必要かどうかを判断するだけで一か月半かかりました。

取引サービスを利用する際は、次の点を確認しておきたいところです。

  • 過去の取引履歴を何年間閲覧できるか
  • CSVやPDFなどで履歴を保存できるか
  • サイト更新・システム移行時に古い履歴がどう扱われるか
  • 画面で確認できなくなった記録を後日請求できるか
  • 年間の取引損益をまとめた資料を取得できるか

海外業者を利用した場合の税務上の扱いは、契約内容や取引形態、個人の状況によって異なります。申告の要否や所得区分については、税務署または税理士などに確認してください。

出金条件や本人確認だけでなく、取引を終えたあとに必要となる記録を残せるかどうかも、サービスを選ぶ際の確認事項です。

似た問題が繰り返されるように見えても、確認しておく価値は変わりません。タイアンブリッジ編集部では、こうした利用過程の問題を引き続き記録していきます。

経験を伝えることが次の一歩につながるように ― 編集部からのメッセージバナー

出金の遅延・拒否、説明のない条件変更、追加入金の案内、取引履歴や利用機能に関するトラブルなど、不安や不利益を感じた経験がありましたら、編集部まで情報をお寄せください。

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本コンテンツは、特定の事業者の利用やバイナリーオプション取引を勧誘・推奨することを目的としたものではありません。

こうした事例の多くは、入金前にしか確認できない条件に行き着きます。業者選びのチェックポイントと出金条件の解説もあわせてご覧ください。