バイナリーオプション被害事例 第5話|ルーターの青いランプ
今回取り上げるのは、香川県高松市で自転車店を営む岡田正人さん(仮名・63歳)と、妻の玲子さん(仮名・61歳)ご夫婦のケースです。
問題になったのは、取引の結果でも出金条件でもありません。
同じ家で暮らす夫婦が、それぞれ自分名義の口座を使っていたこと。それがある日、2つの口座が同時に制限されるきっかけになりました。

※今回は、当時の問い合わせ内容や経緯をたどるルポ形式で構成しています。

「ご家族を含む関連アカウントについて確認しています」
A社から届いた返信を、正人は二度読んだ。
正人はそこでメールを閉じた。
関連アカウント。
誰のことなのかは、すぐに分かった。
妻の玲子だった。
岡田家では、夜になると居間の棚に置かれた小さなWi-Fiルーターの青いランプが点滅している。
パソコンもテレビも、二人のスマートフォンも、同じ回線につながっていた。
それまでは、そのことを気にしたことなど一度もなかった。
正人が為替を気にするようになったのは、自転車店で扱う部品の価格が少しずつ上がっていたころだった。
海外メーカーの変速機や工具の価格表を見ながら、仕入れ先の担当者と「円が動くと、また変わりますね」と話すことが増えた。
そこから為替の記事を読むようになり、価格が上下する仕組みに興味を持った。
バイナリーオプションを知ったのも、その延長だった。
最初に入れたのは15万円。
閉店後、自宅で30分ほど画面を見る程度だった。店の売上を使うことはせず、自分の貯金の中から金額を決めていた。
しばらくして玲子も興味を持った。
「私も、自分で見てみようかな」
正人の口座を使わせることはしなかった。
玲子は自分のメールアドレス、自分名義の銀行口座、自分の本人確認書類で登録した。入金した5万円も、玲子自身の貯金だった。
2人で同じ取引をするわけでもない。
正人はパソコンを使い、玲子は主にタブレットを使った。
ただ、インターネット回線だけは同じだった。
棚のルーターでは、いつもと同じ青いランプが点滅していた。

玲子が口座を作ってから約三週間後。
朝、自転車店のシャッターを上げる前に正人がA社へログインすると、取引画面ではなく確認中であることを知らせる表示が出た。
玲子の口座も同じだった。
正人の口座残高は164,800円。
玲子は48,600円。
取引はできず、出金手続きにも進めなかった。
A社に問い合わせると、その日の夕方に最初の返信が来た。
同一の利用環境から複数の口座へのアクセスが確認されたため、安全管理上の確認を行っているという内容だった。
正人は利用規約を開いた。
1人で複数口座を持つことや、第三者に口座を利用させることは禁止されていた。
しかし、自分たちは1人1口座だった。
ログイン情報を教え合ったこともない。
2人は夕食後、運転免許証と銀行関係の書類をテーブルに並べた。
玲子が書類を1枚ずつ確認しながら言った。
「夫婦って分かれば、それで終わるのかな」

正人は答えなかった。
棚のルーターでは、いつもと同じ青いランプが点滅していた。
3日後。
A社から「取引制限の解除を検討しています」という回答が届いた。
ところが、その2日後に別の担当者から届いた文面には、
「同一環境から利用されている複数口座については、継続利用は認められません」
と書かれていた。
解除されるのか。
口座が閉じられるのか。
残高は出金できるのか。
店では、中学生が乗ってきた自転車のブレーキワイヤーを交換した。
「明日の朝までにできますか」
「大丈夫。夕方には終わるよ」
仕事では、終わる時間を答えられる。
けれど、二人のお金213,400円がいつ動かせるのかは答えられなかった。
そのことが、正人にはいちばん落ち着かなかった。

制限から11日目。
A社から最終回答が届いた。
同一ネットワークなど複数の情報が関連口座の確認対象となったこと、今回の審査結果として両口座での取引継続は認めないこと、規約に基づき金額は返還されないことが説明された。
残高は、それぞれ本人名義の口座へ出金できなくなった。
正人は164,800円。
玲子は48,600円。

お金は戻らなかった。
それでも正人は、最後にもう一度A社へ質問した。
同じ家に住む家族が、それぞれ自分名義で利用する場合、登録前にどこを確認すればよかったのか。
返ってきた回答には、複数口座や関連利用に関する規定を事前に確認してほしい、という説明があった。
その週の土曜日。
正人は店先で、小学生の女の子の自転車に新しいベルを取り付けていた。
ハンドルを握った女の子が一度鳴らす。
チリン、と小さな音がした。
「これで大丈夫」
正人が言うと、女の子は父親と一緒に自転車を押して帰っていった。

夜、家に戻ると玲子はテレビを見ていた。
棚の上では、ルーターの青いランプがいつものように点滅している。
正人はもう、それを見てもA社のことを思い出さなかった。
二人の残高は消えたが、家のインターネットは、何事もなかったように同じ一つの回線を使い続けていた。
編集部から
今回のケースでは、2人がそれぞれ本人名義で口座を開設していたにもかかわらず、同一の利用環境などを理由に「関連アカウント」の確認対象となり、口座機能が制限され、残高の返還も受けられませんでした。
同じような事例を防ぐため、家族や同居人が同じサービスを利用する可能性がある場合は、登録前に次の点を確認しておくことが重要です。
- 同一世帯から複数人がそれぞれ口座を開設できるか
- 同じWi-Fiや端末などからのアクセスに関する規定があるか
- 「関連アカウント」「複数口座」と判断される条件がどのように説明されているか
- 確認対象となった場合、取引・出金などどの機能が制限される可能性があるか
利用規約に「1人1口座」と書かれていても、それだけで同一世帯からの利用条件まで分かるとは限りません。
似た内容を何度も確認することは面倒に感じるかもしれませんが、資金を預けるサービスでは、利用条件や口座制限に関する確認を繰り返すことにも意味があります。

出金の遅延・拒否、説明されていなかった条件変更、口座制限、追加の入金案内など、利用中に不安や不利益を感じた経験がありましたら、タイアンブリッジ編集部まで情報をお寄せください。
情報提供:[email protected]
本記事は、特定のバイナリーオプション事業者や取引の利用を推奨・勧誘することを目的としたものではありません。
公開日:2026年8月7日
© 2026 Taian Bridge編集部(本記事は創作事例です。無断転載はご遠慮ください。)
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