国境の外の事務所に、法はどうやって届いたのか?

シーン ― 2017年9月、ニューヨーク
一人の人物が休暇でアメリカに入国し、そこで逮捕される。イスラエル国籍で、アメリカで事業をしたことはなかった。働いていた事務所は地中海沿岸のカイサリアにあり、会社はイスラエル法人で、ウェブサイトを運営していた会社はまた別の国に登録されていた。アメリカの中には事務所も、従業員も、サーバーもなかった。それでもその人物はアメリカの法廷に立ち、2年後に有罪評決を受けた。今回の旅の問いはここから始まる。国境の外で起きたことに、法はどうやって届くことができたのか。(事件に関する記述は2026年8月時点のものである。)
今回の旅の核心となる問い
- 会社がいくつもの国に散らばっていたら、捜査はどこから始まるのか?
- アメリカの外での行為に、アメリカの法はどう適用されたのか?
- その論理に対する反論は何だったのか?
- 人は捕まった。では、金はどうなったのか?
第11話から続けて ― 散らばっていた三つの会社
前の話で、私たちは転換と維持に分かれた標準化された手順を見た。米国の連邦控訴裁判所が公刊した判決文には、その手順が実際にどう配置されていたのかが整理されている。構造は三層だった。
第一に、二つの外国会社がウェブサイトを通じて商品を広告した。第二に、広告を見て反応した顧客には、また別の会社の転換担当者が連絡し、最低250ドルの入金を促した。第三に、顧客が入金すると、担当はイスラエルにある会社へ引き継がれた。この会社が維持を担った。
第11話で部署として説明した転換と維持が、実際には互いに別の法人だったわけである。この分離は業務効率だけの問題ではない。顧客が相手にしたブランド、最初に電話をかけてきた会社、金を管理していた会社、そしてそれらの会社が登録されていた国が、すべて違っていた。捜査機関の側からすれば、どこを押さえるべきかから決めなければならなかった。

法が届いた地点 ― 線はどこで国内になったのか
米国の検察が適用したのは電信詐欺法(ワイヤー・フロード法)だった。ところが、ここには大きな障害があった。この法は域外には適用されない。アメリカの外で起きたことには、原則として手を出せないという意味である。被告側が公訴の棄却を求めた根拠も、まさにこれだった。
2022年、第4巡回区連邦控訴裁判所はその前提そのものは受け入れた。電信詐欺法に域外適用がないという点を、判決文の冒頭で認めたのである。それでも有罪は維持された。裁判所が見たのは詐欺の設計や実行の場所ではなく、その法が禁じている対象は何かということだった。電信詐欺法が狙っているのは通信の悪用である。そして問題のメールと電話は、メリーランドの被害者たちがメリーランドにある通信線で受け取った。
判決文の表現を借りれば、通信は発信地と受信地の二か所で行われる。発信地はイスラエルだったが、受信地はアメリカだった。だからこの起訴は域外適用ではなく国内適用だというのが裁判所の結論だった。控訴裁判所は、その人物の行為がアメリカの通信を悪用したと短く整理した。
この箇所が今回の話の核心である。法は国境を越えてカイサリアの事務所まで歩いていったのではない。その事務所から出た線がメリーランドの居間に到着した地点、そこを犯罪の起きた場所と見たのである。国境の外の事務所に法が届いた方式は、法を送り出すことではなく、入ってきた線をつかむことだった。

反論 ― では、アメリカはどこまで行けるのか
この論理には手ごわい反論がついてきており、それも記録しておく必要がある。
被告側は、この判断が事実上アメリカを全世界の金融犯罪の取締官にしてしまうと主張した。どんな詐欺であれ、アメリカにいる一人に届くか、アメリカの通信網を一度でも経由すれば、アメリカの法廷に立たされることになるというのである。さらに、連邦控訴裁判所のあいだでもこの問題に対する判断が割れているという点を挙げて、2023年に連邦最高裁判所へ上告した。最高裁判所はその年の10月に審理を受け入れず、これによって有罪は確定した。
最高裁判所が上告不受理としたということは、争点が解消されたという意味ではない。ただ現時点では、控訴裁判所の論理がそのまま立っている。国境を越えるオンライン営業にどの国の法が届くのかという問いは、この産業を越えて、これからも繰り返される問題である。
その事件の結末
事実関係を整理しておく。米国司法省の発表によれば、イスラエル会社の最高経営責任者だった人物は2017年9月に逮捕され、2018年3月に起訴され、2019年8月に3週間の陪審裁判の末、電信詐欺共謀1件と電信詐欺3件で有罪評決を受けた。同年12月、22年の実刑と2,800万ドルの賠償命令が言い渡された。司法省はこの事件で問題となった商品のマーケティング規模を約1億4,500万ドルと明らかにした。
裁判で提示された証拠には、こうしたものが含まれていた。従業員が偽名を使い、ロンドンで働いているかのように話したこと、学歴と経歴を事実と異なる形で伝えたこと、いわゆるボーナスやリスクフリー取引という名前の付いた条件を実際には顧客に不利に運用したこと、そして業者が顧客の損失からしか金を得ないという事実を知らせなかったことである。被告側は、従業員の不正なやり方を容認したことはないと争った。
金 ― 人には届き、金には
ここで今回の話の二つ目の発見が出てくる。判決は維持されたが、賠償命令はそのままでは立たなかった。控訴裁判所は有罪と刑期は認めながらも、アメリカの外の被害者まで賠償の対象に入れたことは法の届く範囲を越えるとして、その部分を定め直すよう差し戻した。入ってきた線をつかむという論理は、賠償においてはそのまま限界になった。責任が確定することと、被害者が金を取り戻すことは別の問題だという意味である。
構造的な理由もある。米国連邦捜査局(FBI)は2017年にこの産業を調査するなかで、コールセンターは一つの国に集まっていても、ペーパーカンパニーと決済処理網は世界のいくつもの場所に散らばっていると明らかにした。英国の詐欺通報機関も同じ点を指摘した。複数の管轄に登録された会社と複数の口座を経由するよう設計された資金経路が、捜査を難しくしているというのである。
米国商品先物取引委員会(CFTC)は、この分野の制裁を発表する際に一つのことを必ず付け加える。被害賠償を命じる決定が、実際の回収を保証するわけではないということだ。相手に十分な資産が残っていない可能性があるからである。これは特定の事件の問題ではなく、この種の犯罪が持つ性質に近い。

旅を終えて
国境の外の事務所に、法は届いた。ただし、届いた方式は予想と違っていた。法が出ていったのではなく、入ってきた線をつかんだのである。そして、そうやって届いたのは、おおむね人だった。金はすでにいくつもの管轄に散らばった後だった。
第6話から第10話までの規制編五話で見た規制がなぜあのような形になったのかが、ここでもう一度説明される。事後に処罰するだけでは遅いという判断があったからである。商品が売られる前に条件を付けたり販売そのものを止めたりする方式は、金が散らばった後には取り戻しにくいという経験の上に立っている。
次の停留所では、その後に起きたことを見る。金を失った人々に、二度目の電話がかかってきた。今度は、金を取り戻してやるという電話だった。
本記事は2026年8月時点のものである。本記事で扱った刑事事件は上級審を経て確定したものであり、提訴段階の主張とは区別して読む必要がある。そしてもう一度言うが ― 損益構造が決まっているということは、リスクが低いという意味ではない。予測が外れれば、使った金額の全部、あるいはその大部分を失う可能性がある。個人向けバイナリーオプションの取り扱いは管轄ごとに異なり、禁止された管轄でこの商品を勧誘されたなら、それ自体が危険信号である。
旅の途中で押さえる用語
- 電信詐欺法 ― 電話・メールなどの通信手段を利用した詐欺を処罰する米国の連邦法。通信の悪用を狙う。
- 域外適用 ― 一国の法を、その国の外で行われた行為に適用すること。原則として認められない場合が多い。
- 国内適用 ― 行為そのものは外国と関係していても、法が狙う核心的な要素が国内で発生したのであれば、国内事件と見ること。
- 賠償命令 ― 加害者に対して被害者への金銭賠償を命じる裁判所の決定。命令がそのまま回収を意味するわけではない。
- ペーパーカンパニー ― 実質的な営業活動がなく、書類上だけ存在する会社。資金経路を曖昧にするために使われる。
- 決済処理業者 ― カード決済などを仲介する事業者。顧客の金が業者に届く通路になる。
表1. 一つの事件が通り過ぎた経路(2026年8月時点)
| 時点 | 何が起きたか | 何が定まったか |
|---|---|---|
| 2017.9 | 米国入国中に逮捕 | 捜査の出発点となったのは事務所ではなく入国 |
| 2018.3 | 起訴 | 適用法は電信詐欺法 |
| 2019.8 | 陪審による有罪評決 | 電信詐欺共謀1件・電信詐欺3件 |
| 2019.12 | 刑の言い渡し | 懲役22年、賠償2,800万ドル |
| 2022 | 控訴審の判断 | 有罪・刑期は維持、アメリカの外の被害者に対する賠償部分は定め直すよう差し戻し |
| 2023.10 | 連邦最高裁判所 | 上告不受理 ― 有罪確定 |
金が散らばった後、失った人々に二度目の電話がかかってきた ― 第13話「失った金を取り戻すという電話」。失った金を回収してやると言って前払い手数料を受け取っていったのが誰だったのか、そして監督当局がなぜこの二度目の電話を一度目と同じくらい危険だと警告したのかを追っていく。
参考資料 · SOURCES
- 米国司法省:イスラエル会社の元最高経営責任者の有罪評決に関する発表(2019年) ― 逮捕・起訴・評決の時点およびマーケティング規模
- 第4巡回区連邦控訴裁判所の公刊判決文(2022.11、事件番号20-4019) ― 電信詐欺法の域外適用の否定、受信地基準の国内適用の論理、会社の三層構造、賠償命令の差し戻し
- 連邦最高裁判所の事件記録(事件番号22-1055) ― 2023年10月の上告不受理
- 米国証券取引委員会(SEC):バイナリーオプション関連の提訴および報道発表 ― コールセンターの運営方式
- 米国商品先物取引委員会(CFTC):制裁の発表に含まれる回収可能性に関する告知
- 米国連邦捜査局(FBI)および英国のAction Fraud:ペーパーカンパニー・決済処理網の分散に関する説明
- 第11話(設備の構造)・第9話(イスラエルの立法経緯) 本シリーズ既存回
確定した判決と提訴段階の主張を文章の中で区別し、被告側の反論は上告記録に基づいて併せて掲載した。基準時点は2026年8月である。 本コンテンツは歴史・教育目的の情報提供であり、特定の商品への投資勧誘や利益を保証するものではありません。規制・現状に関する記述は2026年8月時点のものです。
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